M&Aが成立した翌日から、2社の仕事がひとつになるわけではありません。
譲り受けた会社のシステムは、昨日までと同じように動いています。受注の記録の仕方も、在庫の数え方も、請求書の作り方も変わっていません。
ここで多くの会社が最初に考えるのが、「いずれシステムをどちらかに統一しなければならない」ということです。
本当に、そうなのでしょうか。
本記事では、中小企業庁が公表している「中小PMIガイドライン」等の公的資料をもとに、PMI(M&A後の統合)のうち業務プロセスとITシステムの統合に焦点を当て、業務整理・システム開発を支援するArvixの視点から考えます。 Arvixは、M&A仲介やPMI全般を専門とする会社ではありません。人事制度、企業文化、財務・法務にまたがる統合については、専門の支援機関へのご相談をおすすめします。
PMIとは何か
PMIとは、Post Merger Integrationの略で、主にM&A成立後に行われる統合作業を指します。
中小企業庁「中小PMIガイドライン」(2022年3月公表)では、M&Aの成立は目的達成の「スタートライン」に過ぎず、その後のPMIを適切に行うことで初めて、M&Aの目的が実現され、効果が最大化されるとされています。
このガイドラインでは、PMIを「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3領域に整理しています。業務プロセスやITシステムの統合は、このうち「業務統合」に含まれます。
さらに、取組の全体を【基礎編】と【発展編】に分けているのも特徴です。基礎編は、小規模案件を含むすべてのM&Aで基本となる取組(主にM&A成立後100日〜1年程度、事業の円滑な引継ぎ)を扱い、発展編は、基礎編を押さえたうえで必要に応じて挑戦する、より高度でシナジー効果を狙った取組を扱います。
つまり公的資料そのものが、「全員が同じ深さまで統合すべき」とは説明していません。会社の規模や目的に応じて、どこまで取り組むかを選べる構造になっています。
「システムをどちらかに統一する」という思い込み
それでも現場では、「M&Aをした以上、システムはいずれ統一しなければならない」と考えがちです。
この思い込みには理由があります。2つのシステムが並行して動いていると、入力が二重になる、どちらが正しい数字か分からなくなる、報告のたびに手で突き合わせる、といった不便が実際に起きるからです。
ただし、不便を解消することと、システムを一本化することは、必ずしも同じ答えではありません。
次の章では、公的資料がITシステムの統合をどう位置づけているかを確認します。
公的資料は、ITシステム統合をどう位置づけているか
中小PMIガイドラインの発展編では、業務統合を「事業面(攻め)」と「管理面(守り)」の2つに分けています。
事業面は、クロスセルや販売チャネルの拡大といった売上シナジー、共同調達や生産体制の見直しといったコストシナジーなど、M&Aによって得られる相乗効果に関する取組です。
管理面は、人事・労務、会計・財務、法務、ITシステムなど、事業を支える管理機能を扱います。ガイドラインでは、ITシステム分野の取組として次の3点が挙げられています。
- ライセンス等違反の抑止
- 情報セキュリティ対策
- ITシステム管理方針の明確化
ここで注目したいのは、「システムを一つに統一すること」自体が、取組として明記されているわけではないという点です。公的資料が重視しているのは、既存システムの使用許諾(ライセンス)が適切か、情報セキュリティ上のリスクがないか、そしてシステムをどう管理していくかの方針が定まっているか、ということです。
これは、システムを統一してはいけないという意味ではありません。ただ、公的資料の重心は「一本化」ではなく「適正化と方針の明確化」に置かれている、という事実は確認しておく価値があります。
システムの裏側にあるもの
ガイドラインが挙げる失敗事例の中に、次のようなものがあります。
資金管理業務を一手に担っていた譲渡側経営者の配偶者が、M&A成立後に退職してしまい、取引先への重要な支払が滞留した。譲渡側従業員が日常的にどんな業務を行い、どの取引先に対応していたかを十分に把握しないまま一部の従業員が退職し、重要な技術・ノウハウや取引先を失った。
これらは、システムそのものの問題というより、業務・データ・判断ルール・権限・例外対応が、特定の人やシステムに結びついたまま引き継がれていなかったことが原因です。
システム統合を「画面やデータベースを一つにする作業」として考えると、この部分が見えなくなります。画面の裏側には、誰がいつ何を入力し、誰が確認し、例外が起きたときに誰が判断するのか、というルールがあります。統合で本当に向き合う必要があるのは、こちらです。
Arvixでは「接続・可視化・標準化」の3段階で考える
ここからは、公的資料に書かれた事実ではなく、業務整理とシステム開発を支援してきたArvixの視点からの整理です。
Arvixでは、業務・ITシステムの統合を、深さの異なる3段階に分けて考えます。

見るポイント:段階が上がるほど難易度は上がりますが、下の段階だけでも統合として成立する場合があります
1. 接続:業務の接合部をつなぐ
最初に必要なのは、2社の業務が触れ合う部分をつなぐことです。
受注情報を相手側へ渡す、製造完了情報から出荷依頼を出す、取引先情報を共有する、請求や支払につながる情報を受け渡す。こうした接合部が整えば、現場のシステムを無理に一本化しなくても、業務としては成立することがあります。
2. 可視化:経営から全体を見られるようにする
次に、売上、利益、案件、資金、人員といった情報を、A社・B社それぞれではなく、グループ全体として経営側から把握できる状態をつくります。
ここでも現場のシステムをすべて統一する必要はありません。既存システムを残したまま、必要なデータだけを集約する方法もあります。
3. 標準化:現場業務そのものをどこまで共通化するか
最後に、受注、在庫、出荷、請求といった現場業務そのものを、どこまで共通のやり方・共通のシステムに寄せるかを判断します。
ここは、必ず実施すべき段階ではありません。中小PMIガイドラインが発展編を「必要に応じて挑戦する」取組として位置づけているのと同じように、標準化もM&Aの目的に照らして選択する段階だとArvixでは考えています。
異業種のM&A:製造会社と物流会社の場合
架空の例で考えます。A社は製造会社、B社は物流会社です。
A社では製造完了後の出荷情報を管理し、B社は配車・配送を独自のシステムで管理しています。
この場合、両社の現場システムを一本化する必要は、必ずしもありません。「製造完了 → 出荷依頼 → 配送状況」という接合部分だけをつなぎ、売上や利益など経営に必要な情報は上位で集約する、という選び方が合理的な場合があります。
業務の性質そのものが異なる2社では、現場のやり方を無理に揃えるより、接続と可視化だけで十分なことが少なくありません。
同業種のM&A:製造会社どうしの場合
一方、A社もB社も同じ製造会社で、受注・生産・在庫・出荷・請求という業務が似ている場合はどうでしょうか。
この場合は、段階的に業務を標準化し、最終的に共通のシステムへ寄せることで、人員・設備・在庫・購買などの面で統合効果を得られる可能性があります。ガイドラインが挙げる「共同調達」「生産体制の見直し」「管理機能の集約」といったコストシナジーの取組も、業務のやり方がある程度共通化されて初めて実現しやすくなります。
ただし、これも断定はできません。同業同士であっても、ブランドや顧客層をあえて分けたいM&Aでは、標準化を急がない判断もあり得ます。最終的に判断するのは、M&Aの目的であって、業種が同じか違うかだけではありません。
「統合しない」という判断もあり得る
ここまでの整理をふまえると、業務・システムごとに取り得る選択肢は、次の5つに整理できます。
- 統一する
- 連携する
- 既存のまま残す
- 廃止する
- 新しく作る
「統合できるかどうか」ではなく、「統合することがM&Aの目的達成につながるかどうか」で判断する。 この視点があると、「とりあえず全部統一する」「とりあえず全部そのままにする」という極端な判断を避けやすくなります。
PMIのゴールは、統合率100%ではない
会社を一つにすることと、すべての仕事・システムを一つにすることは違います。
PMIで重要なのは、M&Aの目的に照らして、どこを接続し、どこを共通化し、どこを独立したまま残すのかを設計することです。
中小PMIガイドラインが、小規模案件には基礎編、より高度な取組を望む会社には発展編、という形で段階を用意しているのも、同じ考え方の表れだとArvixは捉えています。すべての会社が同じ深さまで統合する必要はありません。
まとめ
M&A後のシステム統合は、2つのシステムのどちらかに統一する作業ではありません。
公的資料であるガイドラインでも、ITシステム統合の中心は管理方針の明確化やセキュリティ対応であり、一本化そのものをゴールとはしていません。
Arvixでは、統合を接続・可視化・標準化という深さの違いとして捉え、業務ごとに統一・連携・現状維持・廃止・新規構築のどれが目的に合うかを設計することを提案しています。
システム統合とは、システムを一つにする作業ではなく、M&A後の会社に合った仕事の仕組みを再設計する作業なのかもしれません。
自社で確認したい3つの問い
M&Aを控えている、あるいはM&A後のシステムの扱いに悩んでいる場合は、次の3つを確認してみてください。
- 2社の業務が実際に触れ合う部分(接合部)はどこですか
- 経営として今すぐ一つの会社として見たい数字は何ですか
- 現場のやり方まで揃えることが、今回のM&Aの目的にとって本当に必要ですか
この3つを整理するだけでも、「何から手をつけるべきか」の優先順位が見えてきます。
業務の流れを整理し、必要なところだけをつなぎ、会社に合った仕組みをつくる。そうした進め方に関心がある場合は、Arvixのサービス内容もあわせてご覧ください。
