問い合わせメールに書かれた会社名を、顧客台帳へ入力する。
同じ会社名を、営業管理表にも入力する。
案件管理表にも入力し、見積書にも入力する。場合によっては、請求管理表にも入力する。
こうした仕事に心当たりはないでしょうか。
一つひとつの入力は、そこまで大きな作業ではないかもしれません。けれど、毎日のように続くと、少しずつ時間を取られます。入力ミスが起きれば、確認や修正の手間も増えます。
そのため、同じ内容を何度も入力している仕事を見つけると、「ここは自動化できないか」と考えたくなります。
もちろん、自動化が役に立つ場面はあります。
ただ、その前に一度考えておきたいことがあります。
何度も入力している仕事は、同じ情報を何か所にも持っているサインかもしれません。
問題は「入力回数」だけではない
たとえば、取引先の会社名を次のような場所に入力しているとします。
- 顧客台帳
- 営業管理表
- 案件管理表
- 見積書
- 請求管理表
一見すると、「入力作業が多い」という問題に見えます。
しかし、もう一段深く見ると、別の問題が見えてきます。
それは、同じ会社名という情報を、社内のいろいろな場所がそれぞれ持っているということです。
得意先の正式な社名は、現実には1つしかありません。
それなのに社内では、同じ会社名が5個存在しているような状態になっています。
情報を何か所にも持つと、変更にも弱くなる
同じ情報を複数の場所で持っていると、入力するときだけでなく、変更するときにも手間がかかります。
たとえば取引先の社名が変わった場合、顧客台帳を直し、営業管理表を直し、案件管理表を直し、見積書や請求関係も確認する必要が出てきます。
1か所だけ修正を忘れると、こちらでは新しい社名、こちらでは古い社名という状態になります。
すると、次のような確認が必要になります。
- どちらの社名が正しいのか
- いつから変わったのか
- ほかの書類にも古い情報が残っていないか
これは会社名だけの話ではありません。
住所、電話番号、担当者名、商品名、単価、社員情報、部署名など、あとから変更される可能性がある情報では、同じ問題が起こります。
入力するときに何度も手間がかかり、変更するときにも何度も手間がかかる。
ここに、二重入力の本当の負担があります。
同じ情報は、1か所で管理してほかでは使う
では、どう考えればよいのでしょうか。
基本はシンプルです。
同じ情報は、入力するときも1回。変更するときも1回。
たとえば会社名であれば、正しい会社情報を持つ場所を1つ決めます。ほかの表や書類では、その情報を使う形にします。
専門的な言い方をすると、こうした情報をまとめて管理する場所を「マスタ」と呼ぶことがあります。
ただし、言葉そのものを覚える必要はありません。
大切なのは、同じ情報は1か所で管理して、ほかではそれを使うという考え方です。
次の図では、入力回数よりも「同じ情報をいくつの場所が持っているか」に注目してください。

自動化の前に、持ち方を見直す
二重入力を見つけると、Excel AからExcel Bへ、さらにExcel BからExcel Cへ転記する作業を自動化したくなることがあります。
もちろん、それで作業時間が減る場合もあります。
しかし、その前に確認したいのは、A・B・Cがそれぞれ同じ情報を持つ必要があるのかという点です。
もし1か所に正しい情報を置き、ほかの表や書類がそこから使えるなら、人が情報を何度も運ぶ必要はありません。
つまり、考える順番はこうです。
- 同じ内容を何度も入力している仕事を見つける
- なぜ同じ情報を複数の場所に持っているのか確認する
- 1か所で管理して、ほかで使えないか考える
- それでも必要な処理を自動化する
最初から「どう自動入力するか」だけを考えると、同じ情報を何か所にも持つ状態は残ったままになります。
その場合、入力は速くなっても、情報の食い違いや修正漏れの問題は残るかもしれません。
見直しやすい情報から始める
すべての情報を一気に整理しようとすると、かえって大変です。
まずは、社内でよく使い、変更されることもある情報から見直すのが現実的です。
たとえば、次のような情報です。
- 取引先名
- 住所
- 電話番号
- 担当者名
- 商品名
- 単価
- 社員名
- 部署名
こうした情報について、「どこを見れば正しいと言えるのか」が曖昧な場合、二重入力や確認作業が増えやすくなります。
逆に、正しい情報の置き場所が決まっていると、修正や確認の判断がしやすくなります。
「この表にも入力しておこう」ではなく、「この情報はどこで管理するのが自然か」と考えるだけでも、業務の見え方は変わります。
自動化は、その後で考える
ここまで整理できると、自動化の考え方も変わります。
単に入力作業を速くするのではなく、正しい情報を必要な場所へ渡すための仕組みとして考えられるようになります。
たとえば、顧客情報を1か所で管理し、見積書や請求管理表ではその情報を使う。商品名や単価も、必要なときに正しい情報を参照する。
この形になれば、人が毎回同じ情報を入力し直す必要は減っていきます。
自動化は、手作業をそのまま機械に置き換えるためだけのものではありません。
同じ情報を何度も持たなくてよい形にしたうえで、残った作業をラクにするためのものです。
自社で確認したい3つの問い
まず社内で、同じ内容を2回以上入力している仕事を1つ探してみてください。
見つけたら、すぐに「どうすれば自動入力できるか」と考える前に、次の3つを確認してみるのがおすすめです。
- この情報は、社内のどこに何回入力されているか
- なぜ、この情報を2か所以上に持っているのか
- もしこの情報が明日変わったら、何か所を修正しなければならないか
この確認だけでも、入力作業の見直しどころが見えてきます。
事務作業を減らす第一歩は、便利なツールを探すことだけではありません。
自社の中で、同じ情報がどこに置かれているのかを見直すことです。
何度も入力している仕事は、同じ情報を何か所にも持っているサインかもしれません。
入力を減らすのではなく、同じ情報を何度も持たない。
そこから考えることで、事務作業は少しずつ軽くなっていきます。
