経理を自動化したい。
そう考えたとき、まず会計ソフトやAIツール、自動化サービスを探したくなるかもしれません。
もちろん、良いツールを使うことは大切です。経理は、会社の中でも比較的自動化しやすい領域です。毎月繰り返す仕事が多く、締め日や処理の流れも決まっていることが多いからです。
ただし、ひとつ注意したいことがあります。
毎月同じことをしているからといって、そのまま自動化できるわけではありません。
経理担当者は、日々の仕事の中で、意外と多くの判断をしています。
誰が確認するのか。どの条件なら次へ進めるのか。どんな場合に承認が必要なのか。証憑が足りないときはどうするのか。入金が遅れたら誰に知らせるのか。
こうした判断は、慣れている人ほど無意識に行っています。
経理自動化の準備では、まずこの「人の頭の中にあるルール」を見える形にすることが重要です。
経理は比較的自動化しやすい
経理業務は、DXや業務改善の中でも、比較的切り出しやすい領域です。
理由はいくつかあります。
- 毎月繰り返す業務が多い
- 処理のタイミングが決まっている
- 入力する情報と出力する書類が比較的分かりやすい
- 条件やルールを定義しやすい
- 請求、入金確認、経費精算、支払、月次集計など、部分ごとに改善しやすい
たとえば請求業務であれば、売上が確定し、請求内容を確認し、請求書を発行し、顧客へ送付し、入金を確認するという流れがあります。
毎月似た流れで進むため、営業や現場業務に比べると、改善対象を切り出しやすい面があります。
だからこそ、経理は自動化を考える価値があります。
ただし、税務、会計処理、電子帳簿保存、インボイス制度など、法令や専門判断が関係する部分は別です。そこは税理士など専門家への確認が必要になる場合があります。
この記事で扱うのは、法務や税務の解説ではありません。
日々の経理業務を、どう整理すれば自動化しやすくなるかという話です。
「毎月同じ仕事」の中には判断がある
経理の仕事は、外から見ると「毎月同じ作業をしている」ように見えることがあります。
しかし実際には、その中でいくつもの判断が行われています。
たとえば、請求業務だけでも次のような判断があります。
- 通常は月末締めだが、一部の顧客だけ都度請求する
- 一定金額を超えると代表者の確認が必要
- 請求前に営業担当者の確認が必要
- 納品書や作業報告書などの証憑が揃っていなければ請求できない
- 入金期限を過ぎたら担当者へ通知する
- 入金額が請求額と一致しなければ事務担当者が確認する
これらは単なる入力作業ではありません。
「進めてよいか」「止めるべきか」「誰に確認するか」を判断する仕事です。
人が対応している間は、多少あいまいでも仕事が回ることがあります。担当者が過去の経緯を覚えていたり、相手先ごとの事情を知っていたりするからです。
しかし、仕組みに任せる場合は、その判断を説明できる形にする必要があります。
自動化したい作業ほど、実は人の判断に支えられていることがあります。
まずは1か月の経理業務を並べる
経理自動化を考えるときは、いきなりツールを比較する前に、まず1か月の仕事を並べてみるのがおすすめです。
たとえば、次のような業務があります。
- 売上確定
- 請求内容の確認
- 請求書発行
- 顧客への送付
- 入金確認
- 未入金の確認と通知
- 経費精算
- 支払処理
- 月次集計
この段階では、細かく完璧に書く必要はありません。
「毎月、何をしているか」を見える形にすることが目的です。
そのうえで、各業務の横に判断ルールを書いていきます。
次の図では、作業そのものだけでなく、その横にある条件や確認先に注目してください。

作業だけでなく「判断ルール」も横に書く
業務を書き出すときは、作業名だけで終わらせないことが大切です。
次のような項目を横に並べると、自動化できる部分と、人が確認すべき部分が見えやすくなります。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 業務名 | 請求、入金確認、経費精算、支払など |
| いつ発生するか | 月末、入金日、申請時、締め日後など |
| 誰が担当するか | 経理担当、営業担当、代表者など |
| 何の情報を使うか | 売上情報、契約内容、納品書、作業報告書など |
| 通常の処理 | 普段どの順番で進めているか |
| 判断条件 | 金額、顧客区分、証憑の有無、期限など |
| 例外時の処理 | 止める、確認する、差し戻す、保留するなど |
| 必要な証憑 | 請求書、領収書、納品書、作業報告書など |
| 承認者 | 誰の確認が必要か |
| 通知先 | 誰に知らせる必要があるか |
| 完了条件 | 何をもって処理完了とするか |
たとえば請求業務であれば、「請求書を作る」だけでは不十分です。
請求前に営業担当者の確認が必要なのか。一定金額以上なら代表者の承認が必要なのか。納品書や作業報告書が揃っていない場合は、請求を止めるのか。顧客によって締め日が違うのか。
ここまで書き出すと、経理業務は単なる入力作業ではないことが分かります。
人と人の間にも自動化できる仕事がある
自動化というと、データ入力の削減をイメージしやすいかもしれません。
しかし、経理業務では、人と人の間にある仕事も自動化の対象になります。
たとえば、次のようなものです。
- 営業担当者への確認依頼
- 代表者への承認依頼
- 証憑が足りない場合の差し戻し
- 入金期限を過ぎた場合のリマインド
- 処理が完了したことの通知
これらは、会計ソフトへの入力そのものではありません。
それでも、毎月繰り返し発生するなら、仕組みに任せられる可能性があります。
たとえば「請求前に営業担当者へ確認依頼を送る」「期限までに返事がなければ再通知する」「入金期限を過ぎたら担当者へ知らせる」といった処理です。
こうした部分を整理すると、経理担当者が毎回人に声をかけたり、状況を追いかけたりする負担を減らせます。
SaaSやAIを選ぶのはそのあと
業務と判断ルールが見えてくると、ツール選びの基準も変わります。
単に「有名な会計ソフトだから」「AIが使えるから」ではなく、自社の業務に必要な条件で選べるようになります。
たとえば、次のような視点です。
- 請求書発行だけを効率化したいのか
- 入金確認までつなげたいのか
- 承認フローも含めたいのか
- 証憑管理も一緒に整理したいのか
- 担当者への通知まで自動化したいのか
先に業務を整理しておくと、「何をシステム化すべきか」「どこは人が確認すべきか」が判断しやすくなります。
逆に、業務の整理がないままツールを入れると、例外が出るたびに人が手作業で対応する仕組みになりがちです。
ツールは大切です。
ただし、ツールを選ぶ前に、自社の経理業務がどのように進んでいるかを説明できる状態にしておくことが先です。
自社で確認したい3つの問い
経理自動化を考えるときは、まず次の3つを確認してみてください。
- 毎月繰り返している経理業務は何か
- その中で、人が判断している条件は何か
- 例外が起きたとき、誰が何を確認しているか
この3つを書き出すだけでも、自動化の前に整理すべきことが見えてきます。
経理自動化で最初に必要なのは、プログラムを書くことでも、SaaSを選ぶことでもありません。
人が普段当たり前のように行っている仕事と判断を、仕組みに説明できる形まで整理することです。
人が無意識にやっている判断を言語化することが、自動化の準備になります。
